VESPER — 惑星都市を巡る3D短編の制作設計
制作方針
約60秒の映像として、巨大な惑星のそばにある交通都市を描く。主役は都市の日常である。列車が駅を通り、物流ロボットが働き、遠方の巨大ゲートから貨物船が出航する。紫と青を基調に、建築の質量、金属の反射、距離に応じて薄れる輪郭、ゆっくり移動するカメラで、静かで重厚なSFの世界を作る。
制作は、コンセプト画、画角と時間配分、3Dの形状、材質と照明、アニメーション、レンダリング、音楽と効果音、配信用動画の順に進める。ILMのVisual Developmentは、コンセプト、プリビズ、仮想カメラを制作前の設計に利用している。小規模な作品でも、まず画面と見せたい出来事を定めるという原則は有効である。[1]
本書の具体的な都市、物語、配色、尺、画角は、この短編に対する制作上の判断である。各社の映画制作をそのまま再現する提案ではない。技術的な制約と推奨手順には一次資料を付し、実機で確認すべき事項は未測定のまま明示する。
見た目の設計
「重厚さ」を、暗さだけで表現しない。手前には継ぎ目や支持材のある交通設備、中景には用途が分かる建物、遠景には巨大ゲートと惑星を置く。明るい窓、手すり、点検通路、列車の客室などの小さな単位を繰り返し、巨大な建造物の寸法を理解できる手がかりにする。
主役の画面は三層に分ける。前景は暗い梁と近くを通る列車、中景は照明が当たる都市、遠景は霞んだ建築と惑星である。カメラの移動によって前景が大きく、中景が少し、惑星がほとんど動かない見え方を作り、距離を感じられる構図を目指す。これは本作品の演出判断であり、特定の映画の構図の複製ではない。
色は青灰色の金属、くすんだ紫の空、淡いシアンの機器灯を基本とする。駅や生活のある場所には小さな琥珀色の光を加える。すべての輪郭を発光させると材質が読みにくくなるため、発光は窓、運行灯、看板、ゲートの内周に限定する。明るい面と暗い面の両方を残し、立体の向きが読めるようにする。
ILMの『The Creator』制作記事では、物語として何を見せたいか、画面のどこへ視線が向くかを基準に要素を調整した経緯が語られている。ここから得られる実務的な示唆は、詳細の総量を増やすことより、各ショットの視線の中心を明確にすることである。[2]
60秒の構成
| 区間 | 場所と画角 | 主な動き | 感情の変化 |
|---|---|---|---|
| 0–16秒 | 高架駅の近く。列車と建築を見上げる | カメラがゆっくり前進。長い列車がカーブを通る | この都市の規模に慣れる |
| 16–30秒 | 生活と物流のある街区 | 配達ドローン、小さなロボット、異なる高さの交通 | 大きな世界に日常があると感じる |
| 30–48秒 | 宇宙港を望む広い画角 | ゲートの機構が開き、貨物船が現れる | 一度だけ、都市の外の世界を意識する |
| 48–60秒 | 駅の眺めに戻る | カメラが落ち着き、交通が続く | もう一度見ていたくなる |
全編を一本の無理なカメラ経路でつなぐより、地区ごとに読みやすい画角を選ぶ。場面の変わり目は、列車の通過や音楽の和声の変化に合わせる。最初と最後は同じ構図と交通周期へ戻し、繰り返して見られるようにする。ゲートの開閉と船の通過は一周に一度とする。
全ショットの詳細を先に完成させず、駅とゲートを代表画として確認する。Blender Studioは、ブロッキングと基本的な材質が揃った段階から照明作業を始め、主要ショットや色の指針を先に整える手順を説明している。[3]
3Dモデルの優先順位
最も近い列車には、丸めた車体、暗い窓、窓の奥の光、屋根の機器、車体下部、連結部、運行灯を用意する。単純な箱を動かすだけでは、近接した画角で質量や機能が伝わりにくい。背景の小さな列車は、輪郭と灯りを共有する軽いモデルでよい。
建築は、塔、段状の基壇、橋、駅、物流設備を組み合わせる。塔には高さ、幅、セットバック、縦方向のフィン、屋上設備の差を付ける。すべてに同じ窓の格子を貼るのではなく、設備が集中する面、暗い壁、縦長の採光面を混在させる。見える場所へ詳細を置き、画面外の内部構造は作り込まない。
ゲートは、厚い外周、複数の補強リング、分割された装甲、内側の可動部、点検用の灯りで構成する。開く前に既に巨大な機械として見える形にする。船には長い胴体、貨物モジュール、機関部、放熱設備、ブリッジを設け、光る楕円だけで宇宙船を表現しない。
| 資産 | 画面での役割 | 最低限確認する形状 |
|---|---|---|
| 主役列車 | 距離と速度の基準 | 車体の厚み、窓、連結、床下、軌道との接触 |
| 駅 | 都市の日常 | ホーム、屋根、支柱、案内、点検設備 |
| 塔と橋 | 都市の規模 | 高さの差、支持構造、奥行き、遮蔽 |
| ゲート | 一度だけ起こる事件 | 外周の厚み、機械的な分割、開口の変化 |
| 貨物船 | 都市の外へのつながり | 艦体、貨物、機関、進行方向 |
| 作業ロボット | 生き物の気配 | 胴体、移動機構、荷物、作業位置 |
画像生成の役割
生成画像は、完成画の光、配色、密度、画角を揃えるためのコンセプトとして使う。今回は、曲がる高架軌道、巨大建築、惑星、ゲート、貨物船が同居する横長の一枚を用意する。生成された一枚を拡大・平行移動しただけのものを、3Dレンダリングした映像として扱わない。
コンセプトには、近い金属面と霞んだ遠景の差があるか、列車とゲートが同時に読めるか、暗部が塗りつぶされていないかを確認する。必要な形状はBlenderで組み立てる。画像を材質に使う場合は、色の画像と凹凸・粗さのデータを分ける。Blenderの色管理では、色を含む画像とNon-Colorのデータ画像の扱いが区別される。[4]
生成したコンセプト、実際のレンダリング、完成動画のサムネイルは区別して保存する。完成品のサムネイルは実際の動画から作る。これにより、参考画と納品された映像の見え方を混同せず、次の改訂にも正しい基準を残せる。

材質、光、霧
金属は、基本色、金属度、粗さ、細かな凹凸を分ける。車体の広い面には滑らかな反射を残し、基壇や作業設備には粗い面を使う。同じ灰色でも反射の幅が違うようにする。大きな輪郭には面取りを加え、斜めからの光が細い明部を作るようにする。
照明は空からの弱い光と、横から差す主光源を中心にする。駅の照明は周囲の面にも影響するように補助灯を置く。発光マテリアルを設定しただけで、すべてのレンダー方式において周囲へ十分な光が届くと仮定しない。EEVEEでは間接照明や画面に基づく効果に制約があり、画面外や遮蔽された情報の扱いがCyclesと異なる。[5]
霧は遠景の距離を読みやすくするために使う。全体を均一に白くするより、低い層や物流設備の周囲に濃淡を付ける。EEVEEのボリューム表現には反射・屈折内への表示などの制約があるため、反射面の中の霧の見え方まで厳密な物理表現を約束しない。主要ショットで不自然さが出る場合はCyclesを比較する。[5]
表示変換はAgXを基準に検討する。AgXは高い輝度の色を扱い、強い光の彩度を抑える変換として説明されている。白飛びさせずに光源の強さを見せる目的に適している。最終的な露出とコントラストは、実際のレンダリングを見て調整する。[4]
レンダラーと計算資源
実機のBlenderは4.5.13 LTSである。確認時のGPUはGeForce RTX 3060 Ti、VRAMは8GBで、常駐処理2つが合計約6.6GBを確保していた。GPU全体の計算使用率はその時点で0%だった。この値は一回の観測であり、将来も空いているという保証ではない。
| 方法 | この作品での用途 | 判断の条件 |
|---|---|---|
| EEVEE | 動画の候補。多数のフレームを確認しやすい | 反射、霧、影の限界が画面で問題にならず、空きVRAMに収まること |
| Cycles CPU | GPUを占有しない代表画、比較、必要な代替 | 画質と1フレーム当たりの実測時間が制作に適すること |
| Cycles OptiX | GPUの順番が来た場合の高品質候補 | 他処理の状態を確認し、必要なメモリが確保できること |
Cyclesの公式資料は、GPU方式の選択に加えてシーン側のデバイス設定が必要であること、OptiXがRTXの機能を利用すること、GPUメモリが制約となることを説明している。実際の速度はシーンと機器によって異なるため、方式の名前だけで処理時間を決めない。[6]
常駐している他の処理を勝手に停止しない。制作中のGPUジョブは同時実行せず、開始時に利用状況と空きメモリを確認する。計算が使用中なら待つ。空き容量に収まらない場合はCPUで進めるか、具体的なレンダリングを準備したうえで利用枠を調整する。代表フレームのメモリと所要時間を測り、その後に全編の設定を確定する。
音楽と効果音
音は任意でオンにできる。静かなシンセの持続音を土台にし、少ない音数の反復を加える。映像を追う邪魔にならないように、ドラムや強い旋律で常に注意を引かない。和声の変化を地区の切り替えに合わせ、ゲートが開く前には一度音数を減らす。
作曲案は、低い基音、広がりのある和音、間隔の広い短い音、遠くの機械音という4層で構成する。列車には徐々に近づいて離れる低い音、ドローンには軽い回転音、ゲートには遅い立ち上がりの共鳴を与える。これらの音の高さや速度は、正確な物理シミュレーションではなく、映像の距離と重量を伝えるための音響演出とする。
楽曲と効果音は元の素材を別々に保存し、映像の変更に合わせて調整できるようにする。最終ミックスではピーク、無音、長さ、音量を確認する。FFmpegにはEBU R128に基づくラウドネスの測定・調整の機能がある。小さなブラウザ作品でも、耳での確認と測定の両方を行うために使える。[7]
レンダリングから公開まで
完成映像は、まず連番画像として保存し、音声との結合と動画圧縮を分ける。途中で処理が止まった場合、既に完成したフレームを再利用できる。Blenderの出力設定は連番画像にフレーム番号を付ける方式を用意している。[8]
配信用の初期目標は横幅1920ピクセル、映画らしい横長画角、24fps、約60秒とする。これは制作目標であり、未測定の達成値ではない。フルレンダリング前に、駅、街区、閉じたゲート、開いたゲート、最後の駅を確認する。代表フレームが良くても、動く窓や手すりのちらつきが出る可能性があるため、短い連続フレームでも確認する。
Cloudflare Workersの静的ファイルには1ファイル25MiBの上限がある。[9] 高品質の原本と公開用のMP4を分け、公開版は余裕を持って上限内に収める。60秒の動画で総ビットレートを約2.8Mbpsにすると、音声などを含む設定次第で概算約21MBとなる。これは単純な時間とビットレートからの計算であり、圧縮後の画質と実ファイル容量を別途確認する。
Webプレーヤーでは、初期ミュート、再生・停止、再生位置、全画面、スマートフォンでの収まりを確認する。レンダリングされた映像を配信することで、見る側の機器に3Dシーンの描画負荷をかけずに済む。制作日、使用した工程、実際の仕様、初版、コンセプト、元のシーンと音楽の制作情報を残す。
確認基準と残る不確実性
| 項目 | 合格の目安 | 修正する兆候 |
|---|---|---|
| 奥行き | 近景、中景、遠景が読み分けられる | 建物の面が一枚の壁に見える |
| 材質 | 金属、ガラス、粗い構造材の差が見える | すべてが同じ艶、または黒一色 |
| 列車 | 車体と軌道の関係が自然 | 浮く、地面を貫く、カーブで連結が離れる |
| ゲート | 閉→開→船の出現が一度で理解できる | 既に開いて見える、建物に隠れる |
| カメラ | 主な出来事を余裕を持って追える | 建物に突入する、急回転する |
| 反復 | 最初と最後の構図と音がつながる | 突然の位置ずれ、音の切れ目 |
| 配信 | 途中シーク、スマホ、音の切り替えが動く | 読み込み完了まで無反応、容量超過 |
現段階では、最終レンダリング時間、最大VRAM使用量、動画圧縮後の暗部の品質は未確定である。これらは代表画と短い連続レンダリングで測定し、完成記録へ実測値を追記する。映画的な印象の評価には主観が含まれるため、技術的な正常動作だけで完成とは判断せず、実際の画面を確認する。
Sources
[1] Industrial Light & Magic. Visual Development. 公開日記載なし。2026-09-11参照。コンセプト、プリビズ、仮想カメラの役割。
[2] Lucas O. Seastrom / Industrial Light & Magic. Visual Effects Supervisor Jay Cooper on “The Creator”. 2024-02-26。視線と物語を基準にする制作判断。
[3] Blender Studio. Lighting. ページ内の更新注意書きは2023-10-06。2026-09-11に公開検索索引の本文を参照。照明作業の前提と主要ショットの設定。制作パイプラインの全機能が現在も同じであることまでは検証していない。
[4] Blender Foundation. Color Management — Blender 4.5 LTS Manual. 2026-09-11参照。AgX、画像の色空間、Non-Colorの区別。
[5] Blender Foundation. Limitations — Blender 4.5 LTS Manual. 本文の最終更新は2025-12-21。2026-09-11参照。EEVEEの反射、ボリューム、メモリに関する制約。
[6] Blender Foundation. GPU Rendering — Blender 4.5 LTS Manual. 2026-09-11参照。CUDA、OptiX、設定、メモリと速度の条件。
[7] FFmpeg Project. FFmpeg Filters Documentation — loudnorm. 2026-09-11参照。ラウドネス調整機能。
[8] Blender Foundation. Output — Blender 4.5 LTS Manual. 2026-09-11参照。連番ファイルの命名と出力設定。
[9] Cloudflare. Limits — Workers. 2026-09-11参照。静的ファイルの25MiB上限。